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Beyond Reason
[for adult]

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それから正午までの数時間。みちるははるかに、いつもより激しく抱かれていた。

 ひと通りの口付けを交わした後、寝室に運ばれるまで、さほど時間はかからなかった。ライトブルーで統一された寝具。セミダブルのベッド。朝なのに、雨でくすんだ眺め。部屋全体に、薄青色のグラデーションがかかっているように見えた。
 外からは、ずっと雨音が聞こえてくる。とても穏やかな雨音だが、みちるの耳には聞こえていた。音の出所を辿っていくと、出窓の一つが開いていることに気づいた。カーテンが静かに揺れている。昨夜は閉めて寝たはずだから…。朝自分がいないときに、はるかが開けたのだろう。不意に視界がぼやけた。くすんだ視界のまま雨を見ていると、みちるの視線を追ったはるかが窓が開いていることに気づいて、閉めに行ってくれた。冷たい雨風が吹き込んでいた室内は、少しひんやりとしていた。そのことを気にしたはるかはエアコンのスイッチを入れて、ベッドに戻ってきた。みちるはまだ物憂い気持ちのまま、窓の向こうの雨を見ていた。後ろから抱きかかえられるようにして、はるかの体の上に崩れかかる。あぐらをかいているのは、自分の水着でベッドを濡らさせないためなのだろう。はるかに背を預けると、首元にすぐキスを落とされた。キスの雨の中、水着を少しずつ脱ぎ下ろされていく。敏感に反応する体のために、頭を少し回す。涙が頬を伝う。肩に唇が何度か押しつけられ、吐息と共に首から顎へと移っていく。唇の動きと共に、柔らかい前髪の先がみちるの肌をくすぐっていった。ぞくっとする感覚に、思わず身体が跳ねる。跳ねた背中を、はるかの胸が柔らかく受けとめた。腹に回された片腕は、みちるの身体を後ろから支えて、優しい愛撫を続けていた。太腿の内側を素手で撫で上げられて、期待に胸を膨らませる。しかしはるかは、上腹部のほうに探検先を移していった。じらされていることに気づき、振り向いてはるかを見る。はるかは心持ち微笑して、唇を重ねてきた。身体を這い回るはるかの手に、自分の手を絡めて、気持ちが高まってきていることを伝える。

 はるかの手が、みちるの腹から離れた。水着をさらに下ろして、露になった胸を、裾野からそっと掌で辿っていく。もう片方の腕は腹に向かわせて、肋骨や腰のくびれを丁寧に愛撫してきた。じっとしているのが辛くなったみちるは、振り向き加減にキスを求めながら、はるかの肩に手を回していた。胸の頂きでは、はるかの両手が遊ぶ。そんなに強い力ではないものの、柔らかな盛りあがりを直に揉まれて、喘ぎが洩れた。

 
はるかはみちるの反応を見て、少し目を細めた。口付けを交わしている間に、みちるの瞳に涙がこぼれ出したことに気づいたから。それでも、求めれば拒む様子はない。少しの心配を残しつつも、黙って愛撫を続ける。胸の双球での両手のリズムを保ちながら、後ろからみちるの首筋を貪る。

 みちるは再び喘いで、片腕ではるかの頭を抱えた。横向き加減になったみちるを、はるかが唇でとらえた。首筋や肩を辿る湿った音が、静かな室内に響く。みちるは亜麻色の短い髪を撫でて、くしゃくしゃにした。いつもより気持ちが昂ぶっていることが、自分でもわかった。はるかの手は乳房を下り、脇腹へと這っていく。そこで水着に進路を邪魔されて、足踏み代わりの愛撫。濡れた水着を少しずつ下ろしながら、露になってきた素肌を入念に愛撫していく。みちるの身体の奥では、熱い疼きが生まれていた。


 はるかは後ろから、みちるの白いうなじや耳を伺った。まだ十分に湿り気の残る肌や髪。構わず、みちるの耳に触れた。瞬間、みちるの身体が少し跳ねた。触れるか触れないかの微妙な位置に唇を寄せて、舌を伸ばす。舌先で耳殻のラインをなぞる。なぞった後、耳の穴に舌先を挿し入れて、優しく愛撫していく。音に敏感なみちるにとって、耳への愛撫は他の部分よりもずっと感じやすいところだった。少しのけぞる身体を、這わせた両腕でゆったりと包み込む。
 アクアマリンのピアスに唇を押し当てた後。はるかはごく小さな溜息をついた。成り行き上、水着のままリビングから連れてきてしまったのがいけなかった。ベッドを濡らさないようにと、組んだ脚の上に座らせてみたけれど…。これでは動きが取り辛い。
 仕方なく、ベッドにみちるを横たえて、濡れた水着に手をかけた。みちるはされるがままだった。水着を脱がせた後、はるかはまた少し目を細めた。顔をみちるの耳裏に回り込ませて、皮膚を少し強く吸い上げる。それから下腹部の最も敏感な部分に手を伸ばして、軽くさすった。ぼうっとしているみちるを我に返させる。


 みちるは、びくんと反応した。しばらく合わなくなっていた目の焦点が元に戻るにつれて、思考も再開され始めた。強引に水着を脱がすことを少し躊躇っていた、はるかの気持ちに気づく。気づいて、苦笑を漏らす。
 再び密着する体。みちるは、はるかの衣服がかなり濡れていることを肌で知った。


 障害物がなくなったはるかは、これまで隠されていたみちるの腹や臍のくぼみを愛撫していった。片手で乳首の先端に触れながら、みちるの顎あたりまで伸び上がる。白い喉が反り返った。快楽の波を越えて、元の位置に戻ってきた唇をとらえる。みちるは少し声を漏らしながらも、はるかの唇に応え続けた。それを受けて、手をみちるの下腹部のほうに滑らせていく。みちるは唇を離して、浅く息をついた。その様子を確認した後、鎖骨や胸元に口付けて、舌で乳首の周りに円を描く。円の中心を口に含んで、しゃぶると、お菓子の丸ぼうろのような甘さと口溶けの良さがあった。白い肌が、触れる度に柔らかさを増して、桜色に色づいていく。みちるの手が、はるかの髪を時折もどかしく撫で上げた。

 しばらくするとみちるは、与えられる快楽に少しずつ体が慣れ始めてきた。優しく降り注ぐキスの雨の中、やって来たはるかの顔を仰ぎ見る。視界がまたぼやけた。みちるの様子に気づいたはるかは、キスを中断した。お互いに荒い息の中、しばし見つめ合う。みちるははるかを、じっくりと見た。雨色の弱い光を浴びた顔。蒼色の瞳は、ゆらゆらと揺れている。熱を帯びた、けれども憂いに満ちた眼差し。トクンッと心臓が鳴る。“一人には出来ない”という思いと、“別れても、また出会うことが出来る”という思いが交錯する。涙がまた頬を伝う。

 はるかは泣いているみちるを見て、また不安を募らせた。…今日の自分は、少し強引すぎたのだろうか。顔を離して、一言「ごめん」と呟く。みちるは頭を横に振って、「違うの」といった。引きかけていた左腕をしっかりと掴まれて、動きを止める。瞬きしたみちるの瞳から、透明な雫が落ちていく。瞳の様は静かだった。拒んでいる様子もない。

 しばしの沈黙。みちるは、はるかの左腕をぐいと引き寄せた。引き寄せられて、はるかの上体がスローモーションでゆっくりと前傾していく。みちるはそのままベッドに背を倒していった。はるかはライトブルーのシーツの上に、左肘をついた。再びみちるの視野を覆うと、柔らかな白腕が背中に回された。眼下に、薄浅葱色の瞳。腕をついて、掌で左肩を包む。右手を、泣き濡れた頬に添える。涙を拭ってやり、瞳を見つめる。みちるもはるかを見つめ返した。何もしないのに、また涙が流れた。
 はるかはみちるに顔を近づけた。ほとんど反射的に、みちるは目を瞑った。熱い瞼に、目もとの柔らかい皮膚に。優しい口付けを続けて、溢れ出た涙の一つ一つを舐めとっていく。唇を重ねる。浅く、深く、みちるの心を解きほぐすように、丁寧に口付けを重ねていく。みちるは嫌がっている様子ではなかった。形の良い唇が開いて、舌が伸ばされた。はるかはそれに自分の舌を絡めた。詫びの気持ちを舌にのせて、しばし貪る。歯茎を、舌の裏側を。口の中をまさぐり合いながら、ゆっくりと愛撫していく。息が上がる。一度諦めた気持ちがまた生じて、体温が少し上がる。舌の根が次第に熱くなって、鈍い痛みと疲労感を覚え始めた。


 みちるは唇を受けながら、はるかの腰あたりを探って、ズボンからカッターシャツを引っ張った。すぐにベルトの存在に気づいて、はるかと横向きで向き合える状態に身体を半転させる。…心の中で二つの想いが入り乱れて苦しかったが、はるかが欲しいことには変わりなかった。どちらの想いをとったとしても、はるかが欲しかった。ベルトに手をかけて、留め金を外していく。

 はるかはみちるの気持ちを受けて、微笑した。みちるが自分の行動に、怯えて泣いていたわけではないと知って。口を離して上体を起こし、ネクタイの結び目に手をかける。喉元を楽にするために少し下げていたせいか、結び目は意外と固くなっていた。どうにか解いて、次にシャツのボタンを外そうとする。と、みちるが起き上がった。上体を起こしたみちるは、また唇を求めつつも、はるかの脱衣を手伝い始めた。ズボンのベルトに手をかけて、フープから勢い良く外していく。腰回りが楽になると、みちるが中に手を滑り込ませてきた。尻を包むズボンに、ショーツに、華奢な手が差し入れられた。ズボンを内側からずり下ろされて、ジッパーもゆっくりと開いていく。現れたカッターシャツの裾を、自分よりも積極的にみちるはたくし上げた。腰回りの素肌が、直に空気に触れる。肩や背中の素肌も空気にさらされるまで、さほど時間はかからなかった。少しの戸惑いと照れ臭さで、はるかの行動が一瞬鈍る。みちるははるかを仰ぎ見た。膝立ちしているはるかに、みちるの顔が近づいた。
 程なく、舌での“会話”が再開される。離れてはまたすぐに触れ合う唇どうしを、束の間、銀の糸が繋ぐ。はるかは唇を嘗めた。糸はすぐに切れて、二人に本来の行動を再開させる。先に一糸纏わぬ姿になっているみちるは、はるかを自分と同じ姿に導くべく、惜しみなく協力し続けた。しばらくすると、素肌が軽く擦れ合う音がし始めた。


 みちるが泣き止んでいるのを知って、はるかは本格的に愛撫を再開した。白い大海原の探検。みちるをシーツの上に倒して、その柔肌に唇で薄紅色のとても小さな“旗”を立てていく。肌の上に旗を立てる度に鳴る、湿った音。少し濃い旗を立ててしまった所には、消しゴム代わりに手をやって揉み消す。揉む度に、華奢な身体が微かに震えた。臍のくぼみの傍にもキスを一つ与えると、みちるの体から微かにプールの水の消毒剤のにおいがにした。お互いが自分だけの世界に行っていた時間を思い出す。…先に現実に戻ってきて、片割れの姿を探し始めたのは自分。想いの差のようなものを感じて、少し悔しくなる。臍の横の柔らかい皮膚を甘噛みして、薄紅色の刻印を押す。

 みちるは、はるかの愛撫に身を任せていた。触れられる度に力が抜けていき、身体が軽くなっていく。掌で身体を伝われているだけなのに、何故こんなにも感じてしまうのだろう。同じように自分もはるかの身体を愛撫しながらも、今日ははるかの攻勢に勝てない気がしていた。

 はるかはみちるの片脚を曲げ立てて、腕で捕捉し、腿の内側に向かっていった。掌と唇を使って、最も敏感な部分にゆっくりと近づいていく。膝の裏とふくらはぎに近づいて、唇を押し当て、その柔らかさを楽しむ。何度か押し当てていると、重みのある脚が微かに震えた。唇を離して、太腿の先に伝っていく。腿の内側を手でなぞって、口付けを一つ残す。その先にあるみちるの“花”は、既に十分潤っていた。みちるの片手がはるかの頭に回され、髪を軽く撫でた。進もうか引き返そうか、しばし悩む。…。まだ、じらしたい。みちるの脚に手を添えて、肩から下ろした。

 みちるは“お預け”を食らった犬のような気分になりながらも、はるかに翻弄されたまま、自分の身体が制御不能に陥っていくのを静観していた。身体も心も、いつも以上に昂ぶっている。いつも以上に、耳が音を拾う。はるかと触れ合う度に生まれる一つ一つの音が確実に耳に届いて、自分を昂ぶらせていく。肌が軽く擦れ合う音。手が肌を撫でる音。唾液で濡れた唇が肌を吸う音。肌がシーツと擦れる音。関節が軋む音。ベッドがわずかに軋む音。はるかの吐息と息遣い。窓の向こうから微かに届く、雨音。まるで全身が“耳”になっているような錯覚に陥っていた。

 はるかはみちるを抱きながら、彼女の涙の意味を考えていた。横向きで向かう合うと、みちるの頬にはまだ涙の跡が残っていた。手を差し伸べ、頬を拭ってやる。…抱いているときに泣かれるのは初めてではなかったが、それなりに心咎めるもの。抱かれるのが怖いわけではないことは確か。それならば…。あと数時間したら確実に消えるタリスマンの持ち主の命のことを思って、泣いていたのだろう。はるか自身にとっても、それは非常に重い心の負担だったが、涙は出なかった。
 …誰が犠牲者になっても、重い十字架を背負って生き続けることに変わりはない。けれど出来れば、自分達の全然知らない人が“最後の犠牲者”であってほしい。そう望むだけだった。全然知らない人だったら、“使命のため”だとまた無理矢理思い込んで、乗り越えていくことが出来るかも知れない。…いや、乗り越えていかなければならないのだ。聖杯を、伝説のメシアに託すまでは。
 そう思いながら、肩甲骨から上腕にかけてのラインを唇で辿り始めると、不意に皮膚の盛り上がりを感じ取った。口を離して、その部分を見る。古い傷が見えた。かさぶたはもうとれて、いまは傷跡に皮膚の盛り上がりだけが残っている。かつて、みちるが初めて自分の前で変身したときに負った傷だ。…さっきも何度か辿ったはずだが、今日はまだ見過ごしていた。…あのとき、あれほど痛々しい傷を負っていたみちるの左上半身は、3年という時間のうちにここまで回復した。みちるを抱く度に、少しずつ薄れていく傷跡を確認してきた。砂時計のような傷だ、といつか思ったこともあった。いつかは消えていく傷で、まるで自分とみちるが共に過ごせる残り時間を計っているような…。傷時計みたいなもの。
 少しの行動停止時間の間に、みちるがはるかの肩を抱き寄せて、首元にキスをしてきた。耳元に寄せられた口から、息が結構上がっていることに気づく。

 はるかはみちるの髪を撫でて、彼女の首の後ろに手を回した。枕カバーが濡れていることに気づいたが、構わず首筋の地肌に触れる。そのままゆっくりと指を滑らせていって、髪を掬い上げ、生え際を露にする。艶やかなうなじが現れた。その白さをまぶしく感じて、少し目を細めた。首筋に唇を寄せて、露になった生え際を軽く吸う。熱い吐息が耳にかかる。腕を這っていたみちるの掌に、一瞬力が入った。お互いの体から発せられる熱と艶かしさで、こちらまで思考がおかしくなりそうだった。

 向かい合ったみちるを、脇下から腰までゆっくりと愛撫していく。ヒノキ板のような滑らかさと、マシュマロのような弾力性。みちるの身体がうねった。腰まで来ると、身体の前部に旋回して、乳房へと上昇する。軽く触れるだけでも、十分な弾力性は伝わってくる。柔肌への終わりないキスの中、再びみちるの吐息と嬌声が漏れた。ひとりでに起ちあがり始めた乳首を数度唇に触れさせ、徐々にしっかりと捉えて、嬲っていく。強く吸い上げると、音が立った。みちるの声のトーンが上がる。嬲るたびに、甘い悲鳴が上がる。顔は既に紅潮していて、瑞々しかった。
 太腿を、みちるの脚の間へ。最奥の行き止まりに密着させて、ゆっくりと押し動かしていく。と、腰を掴まれた。切なげな瞳とぶつかる。はるかは腰からみちるの手をそっと解いて、自分の手指を絡めた。すぐに強く握り返してくる。内心苦笑しながら、乳首を諦めて、鎖骨へと伝っていく。


 みちるは既に堪えきれなくなっていた。いつも以上に昂ぶっている身体は、自分でも御することが難しい状態になっていた。全身を使ったはるかの愛撫に、身体が火のように熱くなっていく。目の焦点も、また合わなくなってきていた。風景が霞んでいく。触れられ、吸われる度に理性が揺さぶられ、本能的な自我が顔を出す。身体の奥からは、熱い疼きが止めど無く湧きあがる。それは体熱となって、心身を一層熱く焚き付けていった。はるかも多分、同じ状況のはず。けれど、いまは自分が彼女に身を委ねる時。

 眼前の白海原をひと通り探検し終えたはるかは、気の向くままに散歩し始めた。潤いに富んだみちるの肌は、はるかの手に吸いつくように触れてくる。触れる度に、みちるの声が途切れ途切れに漏れた。
 2度3度と探検を繰り返すうちに、はるかの首や頭に回されたみちるの腕の力が強くなっていった。時折、意識的に腕の力を抜いて肩を掴み直してくるが、徐々に制御がきかなくなってきている。その状況に少し申し訳なくなって、みちるの背中をシーツに戻す。拠り所を得たみちるは、少し表情を緩めた。


 長らく白海原を探検していたはるかは、ようやく熱い泉に降り立つことにした。熱い泉は、待ちきれずに微かに震えていた。

 みちるの脚の間で、ゆっくりと押し動いていたはるかの太腿が離された。代わりにはるかの右手がその部分に滑り降り立った。降り立った瞬間、みちるの身体に弱い電流のようなものが走った。一瞬、呼吸の仕方を忘れたような錯覚に陥る。しばらくの間、泉の上で手が遊ぶ。手前の太腿から指の腹で滑ってきて、優しく撫でさする。すぐには中に入らず、泉の主であるみちるに準備の時間を与えているらしかった。指の動きに呼応して、悶え、浅く息をつき続けた。
 みちるは、はるかが身体を引いていくのを感じた。半開きになっている脚を押し広げられて、下腹部にあたたかい吐息を感じた。頭の後ろのほうが、羞恥心で熱くなるのがわかった。股間に埋められた亜麻色の髪に触れ、力なく手を添える。堪えきれず、髪に指を埋めて、もどかしく掻きむしる。はるかはランの花を触わるように、指で蕚片を固定して、中央の唇弁に触れてきた。下から舐め上げて、蕊柱に触れてくる。跳ねそうになる身体を、ベッドに必死で押しつける。第2波もすぐにやってきた。亜麻色の髪を一層強く掴んで、どうにかやり過ごそうとする。第3波、第4波。柔らかな舌と指が、惜しみなく愛撫を続け、みちるの泉を潤わせ続けた。みちるはせわしなかった。掴んでも掴んでも、落ち着く場所が見つからないほどの、激しい快感。そして羞恥心。二人しかいない部屋でも、それは決して拭えない感情だった。仕方なくはるかの頭から手を離して、シーツの上に両腕を投げ出す。枕が指に触れて、それをぎゅっと掴む。枕カバーに使ってある布を引き千切ってしまいそうなくらい、思い切り握り締めた。


 はるかは蜜集めをする蜂になったつもりで、みちるの“花”にとまっていた。みちるの“花”は、はるかの前でしか開かない。開いた“花”を正確に処理できるのも、はるか以外にいない。はるかはそのことに満足していたし、みちるにも十分に満足してほしいと思っていた。よく熟れた身体に熱い探りを入れ、みちるを快楽の渦へと導いていく。…溢れ出す蜜と、多量の熱放散が行われる現場での行動。それは、時折はるかを軽くむせさせた。自分の“花”まで熱くさせる、湿ったような、濡れたような音が断続的に鳴り続ける。

 みちるの身体は、言うことを聞かなくなっきて久しい。淫乱な音が鼓膜を刺激し、みちるの思考を再び麻痺させていく。音に敏感なみちるにとって、それははるかの愛撫と同等に自分を昂ぶらせるもの。はるかはそのことを知っているはずだが、みちるが嫌がらない限り、その場での行動を躊躇わない。…心まで裸になりきれていないのは、もしかしたら自分のほうなのかも知れない。
 不意に、はるかの舌の腹がみちるの花芯に触れた。下腹部の方角から聞こえる、最愛の人の吐息。それを聞いて、みちるの理性がまた弾け飛んだ。


 蜂になったはるかは、与えられた蜜にまだ満足できずに、花奥へと探りを入れた。左手で押えていたみちるの太腿を、そのままゆっくりと撫で擦る。
 ふと思い立って顔を上げる。もっと楽な体勢に微調整しようとすると、片腕を掴まれた。少し不安げなみちるの表情とぶつかる。はるかは微笑した。まだ終わるつもりはなかった。体を起こして、ベッド端の壁際に背をもたせかけて、みちるを招き寄せる。自分の脚の上に座らせて、近づいてきた赤い唇にキスで応える。そして身体のラインを滑るようにして、右手をみちるの太腿に向かわせた。みちるはすぐに意味を解して、はるかの腕を離した。火照った頬がいっそう赤みを増す。


 みちるの“花”は、もう十分過ぎるくらい、濡れていた。しばらく手全体で大掴みに刺激を与えられて、みちるは悶えた。その後、中指が浅く潜って、秘境の中を再探検し始めた。浅く入った指が、入り口付近で弧を描く。声にならず、熱い息を吐く。はるかの背中に腕を這わせて、どうにかやり過ごそうと試みる。はるかは、みちるの身体に負担をかけないように、時折乳房を口に含んで気を逸らさせながら、しばらく浅瀬でゆったりと潜水していた。

 しばらくすると、深度が進む。敏感な部分をすぐに探り当てられて、声をあげる。腕をはるかの首に回して、縋る。一度声を出すと、自分では止められなくなった。亜麻色の髪を撫で上げて、くしゃくしゃにする。のけぞった身体も、逃げるどころかむしろはるかの身体に縋りつくようになっていく。小刻みに押し寄せるオーガニズム。それがみちるの思考を白濁させて、また透明に戻していった。…このまま、二人で。これから始まる最後の戦いのことなど忘れて、ずっと抱き合っていたいとさえ思った。

 はるかは秘境の中で、指を食らい尽くすような熱さと圧力を感じていた。でもその圧迫感は、はるかを追い出すというよりも、むしろもっと奥へと導くように作用していた。まるで食虫植物のように。入り込んだ“虫”を圧迫して、熱い体液で溶かしていく。溶かされてもいい、とはるかは思った。溶け合って、みちると一つになれればいい。咥え込まれた指を、みちるの表情を読みながら、ゆっくりと弧を描くように擦りつけていく。
 みちるの手が、はるかの首から逸れて肩にしがみついた。指先で内壁をなぞる度に、熱い泉が溢れ出す。指を動かす間も続く無限のキスは、みちるにとって唯一の拠り所となっているらしかった。みちるの身体は、心なしか震えていた。肩に回された腕も、縋りつく力がより強くなってきている。身体の内奥から繰り返し押し寄せるオーガニズムの波。それに悶えながらも、こちらにキスで応えようと頑張っている。閉じられていた瞳が開く。みちるの潤んだ瞳を見て、はるかは熱を持った瞳のまま微笑した。心の中で野生が頭をもたげる。指で内壁を、しっかりとこすり上げる。堪えきれず、みちるの手がはるかの肩からシーツの上へずり落ちた。心の中で苦笑して、速度を少し落とす。みちるの顔を確認する。声は途切れ、こちらを見る余裕が出てきた。視線が、切なげな瞳とぶつかる。頃合を見計らって、再び扉を叩く。艶やかな声があがり、眼下の白い大海原が波打つ。反り上がった胸を口で捉えると、頭を抱かれ、髪にきつく手指が埋め込まれた。力を緩める余裕は、もう残っていないらしい。乳首を再び嬲る。甘い悲鳴を上げて、ドアノブが回る。顔を起こす。みちるの顔は紅潮していて、幾らか膨らみを増しているように見えた。
 快楽の扉が、ゆっくりと開いていく。


 みちるは、腰から下がとろけて、はるかの手指と一体になっているような錯覚に陥っていた。挿し込まれた指をもっと深く咥え込もうと、身体がねだっている。もっと深く。もっと奥に。もっと、ずっと。腰を緩慢に揺らし始めると、はるかは全身で受け止めてくれた。みちるに無理な負担をかけないないように気を使いながら、縋る場所を提供してくる。みちるは与えられた場所に、迷わず縋る。広い肩に、首に、腕に。手を這わせる。はるかの肌もうっすらと濡れていた。

 はるかは一度指を引き抜いて、薬指を仲間に加えた。再び潜水して、探検を再開する。繊細な泉を傷つけないように、限りない優しさをもって。スローテンポでリズミカルに突き上げていった。熱い吐息が肩にぶつかり、砕け散っていく。蒼色の瞳は、薄浅葱色の瞳を優しく見守っていた。みちるの表情を間近で見ながら、秘境の中で舵取りを調整する。見つめ合う顔同士を、唇がすぐに繋ぐ。

 みちるは両腕をはるかの首に回して、自分の胸をはるかの胸に上から押し付ける格好になっていた。少し息苦しそうなはるかの様子に気づき、意識的に体を離す。そうするとはるかは、みちるの背中に腕を回してまた抱き寄せてきた。みちるの耳元に、熱い吐息がかかる。アクアマリンのピアスの上に、柔らかい感触。熱を帯びた唇が押し当てられて、離れた。
「みちる……。」
 低い囁きが、耳に届いた。熱を帯びて掠れたような声の余韻が、切なかった。そしてはるかの心が自分に寄り添っていることが、みちるは嬉しかった。みちるも、はるかの名を呼んだ。返事の代わりに、首筋にキスを落とされる。はるかの舌も頬も、自分と同じくらい十分に熱かった。
 泉の中を、2本の指がかき回す。快楽と苦しさで、唇を離す。亜麻色の髪に触れている手に、一層力が入る。見上げた視線の先で、蒼色の瞳が熱を帯び、優しく揺れていた。甘い魔法が一段と強くかかる。心も身体も、完全にコントロールを失っていく。…足の先が冷たい。
 みちるは苦しかった。酸素を求めて開けた唇を、伸び上がってきたはるかが再び甘噛みする。のけぞった顎を柔らかな唇が捉えて、喉へと伝っていく。胸元まで辿るとようやく落ち着いたらしく、乳房の脇からはるかが顔を上げた。再び見つめてくる、熱を持った蒼色の瞳。雑念も思考も、全部シャットダウンされていく。願いは、ただ一つ。…はるかを失いたくない。優しい瞳も広い背中も、全部自分だけのもの。誰にも渡さない。誰にも汚させない。たとえ何を犠牲にしても、はるかだけは最後まで守り通してみせる。たとえその結果として、死に別れることになっても。必ず、守り通してみせる。
 腰が動く。身体はこの上なく熱いはずなのに、背中の奥から、何か冷たいものが走り始めていた。


 はるかはみちるを見ていた。揺れる胸を。うねる腹を。震える肩を。切なげな表情を。身体を預けきっているみちるの姿は、こんなにも頼りない。自分だけが知っている、本当のみちる。大人びた微笑みの仮面が外れている。愛しさに、目を少し細める。
 熱い泉を探検し続ける右手指には、既に痛みと疲労感を感じていた。手首も、腕も。それでも、みちるの涙が乾くまでは、引き返したくなかった。と、花奥を突進する指に強い締め付けが与えられた。指が抜けなくなりそうなくらいの強さと、吸着力。みちるが感じていることは、言わなくても身体が教えてくれていた。


 蒼色の瞳が、薄浅葱色の瞳とぶつかった。指を、最奥に向かって、一際強く押し上げる。はるかの指が、みちるの“海”に触れた。その瞬間、みちるの中に残っていた理性の最後の一欠けらが弾け飛んだ。はるかの下でみちるは切ない声をあげて、身体を震わせた。身体の内奥から発生する、連続的な強い波。それに支配されて、身体は全く言うことを聞かなくなってしまっていた。しばらくすると波が止んで、はるかの体の上に力なく沈んでいく。快楽の扉が開く。扉の向こうには、真っ白な世界が広がっていた。



 
意識が一度高みを大きく越えた後。

 しっかりと抱き締められている感触の中、みちるはゆっくりと目を開いた。目を開くと、蒼色の優しい瞳が待っていた。微笑みかけると、はるかも笑い、唇が重ねられた。しばらく口付けを交わしていると、はるかはベッド端の壁から背を離した。みちるを抱き締めたまま、体を前に倒してシーツの上に転がった。キスが一度止み、少し遠慮がちな瞳とぶつかる。何も言われなくても、はるかの考えていることがわかった。
 再び求められれば、拒む理由はない。既に勃起している乳首を口に含まれて、声を漏らす。徐々に強く吸い上げられていって、堪えきれずにはるかの肩を掴む。もちろんはるかは心得ていて、快楽が不安に勝っているうちに唇を離した。乳首が唇から離れた後も、他の箇所への丁寧な愛撫が続けられた。脇から腰にかけてのラインを、何度も何度もなぞられる。
 しばらくすると、愛撫の中心が下腹部のもっとも敏感な部分にまた下がってきた。重ねられていた唇も、ゆっくりと身体を下りて行き、また“花”へと向かっていく。


 はるかはみちると横向きで向かい合って、少し起き上がった。片手をみちるの肩に添え、もう片方の手で、濡れそぼった“花”の入り口をゆっくりと探っていく。しばらくすると、入り口の向こうへ。最初から2本でぐっと押し入ると、白い大海原が再び波打った。みちるはやっぱり声をあげたが、痛みはないようだった。代わりにすぐに慣れて、自分でもリズムを取り始めた。片腕で上体を抱き上げて、楽な体勢にさせる。ゆっくりとした指の動きに呼応して、形の良い腰が動き始めた。軽く曲げられた白い脚が、時折艶かしい声と共に動いて、シーツの上に大掴みに皺を寄せていく。ふと視線を移すと、みちるのバックでシーツがかなり乱れていることに気づいた。…今朝は起きたとき一人だったから、新しいシーツに替えておいた。昨夜のことを忘れて、今日これから始まる長い1日に備えるために。自嘲の念と、少しの愛おしさ。薄青くて頼りない地形は、みちるに触れる度に形を変えていく。台風が来る前に立つ、海の白波のようだった。
 切なげな瞳で見つめられて、キスで応える。唇を塞がれて小さく呻くみちるは、それでも舌を絡めてきた。キスから逃げる気配はない。“花”を軽くかき回しても同じこと。はるかは唇を離して、苦笑した。意地悪をするつもりは全くなかったが、このままではみちるが過呼吸になってしまう。苦笑を微笑に変えながら、下腹部でゆっくりと指を動かし続ける。返される、艶めいた微笑。頭の中では、最も原始的な部分が次第に活発になっていく。その変化に抗わずに、しばらく大人しくさせておいたナイトサファリの動物を、はるかは頭の中で解放した。
 はるかはみちるの中に手指を挿し込んだまま、滑らかな動作で体勢を立て直した。開かせたみちるの脚の間に、身体を滑り込ませる。重ねた肌越しに、直に感じる体温。熱にうかれた体は、みちるも同じだった。顔を上げて、白い水平線の向こうの、薄浅葱色の瞳を見た。


 はるかに見つめられて、みちるは思わず目を瞑った。体の上に乗ってこちらを伺うはるかは、いつか動物園で見たユキヒョウに似ていた。ネコ科特有の顔の愛らしさと、狩猟動物としての獰猛さ。そして二人でいる時しか絶対に見せない、艶やかで真剣な眼差し。じっと見つめられると、本当に食べられてしまいそうな気がした。そんなはずはないとわかっていても、瞳を瞑らずにはいられなかった。狩られるシカやノウサギになったような恐怖感と、心細さ。目をつぶって、その感情を揉み消していった。


 みちるの反応を読み取ったはるかは、体を起こして、みちるの首筋に近づいた。少しだけ攻撃的な雰囲気で、しかしこれまで以上に優しい動作でみちるを愛していくことにする。シーツの上に投げ出されている白い右腕を掴んで、獲物を押さえつける。それから肌に舌を這わせ、甘噛みして、赤い花びらを残す。噛んだところを嘗めて、唇を貪り、首筋や胸元を新たに探る。探る度に、甘い吐息が漏れた。
 はるかはみちるの“花”を優しく撫でてキスし、花芯を唇で捉えた。そのまま口で包み込んで軽く吸い上げると、唐突に大きな嬌声が上がった。吸い上げながら、花芯の奥から顔を出してきたものを舌で捉え、限りない優しさを持って愛撫する。間断なく声があがる。そうやって花芯を愛でる一方で、人差し指と中指で花奥の蜜腺を刺激する。やっていることはさっきとあまり変わらないが、みちるの“花”は以前よりきつくはるかの手指を咥え込んだ。ゆっくりと指を動かす。切ない声をあげて、脚をきつく閉じられる。痛みを感じている声ではなかった。
 快楽に支配されたみちるの身体が、小さくうねる。うねられて、みちるの上に乗っているはるかの身体が揺れた。快楽の偏りに気づいて、左手をみちるの右腕から離す。上体を少し起こして、乳房をとらえる。周辺から中心に向かって優しく揉みしだいでいくと、また声があがった。おかげで白い裸体の上半身は大波を立てなくなったが、代わりに悩ましいまでの全身のうねりが始まった。“花”に突き込む指を一本増やすと、もともときつかった花奥の入り口は一層狭くなって、秘境の探検者を圧迫してきた。


 
みちるの身体は、ほとんど限界にきていた。声のトーンはたやすく上がる。腰ももう、自然とリズムをとっている。心の中では“いつまでもはるかと触れ合っていたい”という気持ちと、“早く楽になりたい”という相反する気持ちが入り乱れていた。
 不意に、みちるの身体の奥で嵐が起こった。それは収まる気配はなく、急速に大きくなっていった。先ほど一度達した時よりもずっと大きくて、強い波。


 リズムを乱し始めたみちるを、はるかは全身でサポートし始めた。花芯から顔を上げて、みちるの傍らに素早く移動する。頭に手を添えて、みちるの顔を見ながら、3本の手指でその“花”を激しく突き上げる。花奥のそれは、はるかの指に吸いついて離れなかった。熱い吐息が短く漏れ続け、二人の周囲に生温くまとわりつく。しんとした部屋の中で、艶のある悩ましい声が響く。喘ぐみちるの首筋に口を押しつけて、皮膚を軽く吸い上げ、みちるの上体を鋲留めにする。その様は、獲物の最期の一息を止めるユキヒョウにも似ていた。みちるはしばらく乱れた後、波が引いていくように大人しくなっていった。花奥の締め付けが緩む。再び高みを大きく越えて、今度は意識を手放したらしかった。



 はるかは身体を起こした。眼前には、力なく横たわるみちるの姿があった。乱れた髪。紅潮した肌と、閉じられた瞳。握り締められていたシーツが、みちるの指を半分くらい埋めたまま、固まっている。その乱れ具合が、彼女の体が自分の愛をどれだけ深く受け止めてくれたのかを物語っていた。ライトブルーのシーツを海に見立てると、泳ぎ疲れた人魚が眠っているようにも見えた。再び身体を屈め、髪の上から頭にキスを落とす。みちるは目を閉じていて、身じろぎもしなかった。口元で耳を澄ますと、静かな寝息が聞こえてくる。ほっとして、意識のない白い脚をそっと閉じる。それから何となく、人形のように均整の取れた裸身を見つめた。大人に限りなく近い、それでもまだ完成しきっていない子供の体。水泳で鍛えた、張りのある肉体。その肌は白くて、上質なシルクのような手触りがあった。みちると愛を確かめ合った後、何度この姿に見惚れてきたか、わからない。自分だけが独占できるひとときだと思っていたし、誰にも邪魔されたくなかった。
 と、首の後ろのあたりがヒヤッとした。髪が汗で濡れている。同じように汗で濡れたまま、急速に冷えていくみちるの身体を思った。
 ブランケットを探すと、自分達の脚の下で丸まっていた。みちるを起こさないようにそっと体から離して、広げて彼女の身体に掛けた。はるかもその隣に入る。隣を見る。満ち足りて、静かに寝息を立てるみちるがいた。顔に降り掛かった乱れた髪を見て、手でそっと掻きあげる。そして髪に触れたまま、しばらくみちるを見つめていた。このままずっと、この状態が続けば良いと思った。いっそずっと目を覚まさずに、ここで一緒に居られれば。でもそれは明らかに無理な要求だということは、自分でもわかっていた。…それでも。みちると離れたくなかった。みちるに傷ついてほしくなかった。タリスマンの持ち主の命を奪うことよりも、自分にとってはずっと大事なことだった。
 不意に、目の奥から熱いものが込み上げてきた。はるかはそれを、無理やり抑えつけた。たとえみちるが眠っていても、彼女の前で泣きたくなかった。思わず視線を変える。窓の向こうでは、まだ雨が降っていた。



 しばらくすると、みちるは意識を取り戻した。軽い吐息と、シーツの擦れる音。気づいて、目を合わせる。みちるは、艶のある優しい瞳をしていた。満ち足りて、安心しきった顔。はるかは、そんなみちるを見るのが好きだった。自然と、表情が緩む。まだ少し火照った頬には、乾いた涙の痕が残っている。顔を寄せて、ゆっくりと口付けを交し合い、再び身体を密着させる。
 はるかは深追いしなかった。適当なところで唇を離すと、みちるは柔らかく微笑んだ。そしてはるかの頬を手で包み、何となく肩へ下りて、それから腕に触れてきた。


 
みちるははるかの腕を、感触を確かめるようにゆっくりと愛撫した。右腕の筋肉は、少し張っていて、熱を持っている。先ほど自分を快楽へと誘ってくれた、その腕。はるかにとってもエネルギーを使う所作であったことを、改めて思い知る。そっと撫でて、愛おしむ。もっとはるかに触れたくなって、掌をはるかの胸の膨らみと滑らせていく。胸の頂きの柔らかい突起に、指で触れる。そこはいつの間にか、既にかたくたちあがっていた。

 はるかは、胸に触れてきたみちるの手を押しとどめて、指を絡めた。少し疲れていたし、眠たくなってきていた。手を絡め合い、そのままの体勢で体力が回復するのを待つ。みちるはそれ以上求めず、ただはるかの顔を見つめていた。…お互いに呼吸は落ち着いているけれど、身体はまだ熱を帯びている。汗ばんで、火照った身体。汗で濡れた髪。瑞々しい微笑と、熱をもった瞳。鼻にかかったような呼吸。それらの全てが愛おしかった。


 少し時間が経った後、絡めていた手をはるかは解いた。みちるははるかの目を探った。はるかは少し笑って、もっと顔がよく見える体勢にみちるを抱え直した。みちるの頭の下に腕を添えて、腕枕をする。人肌のぬくもりを、もう少しの間感じていたかった。間近に見る、薄浅葱色の瞳。吐息。みちるも笑い、はるかの頬に手をあてた。唇がすぐにも触れ合いそうな距離で、しばし見つめ合う。はるかは少し安らいだ気がした。みちるが一緒ならば、自分はどこまでも残酷になれる。…なれるはず。

 束の間の休息をとっていたはるかは、みちるの口付けでまた現実に引き戻された。唇を交し合ううちに、みちるが頭をもたげて、はるかの上に移動し始めた。首元に与えられる接吻。くすぐったさに、はるかは身体を反転させた。上に乗ってきたみちるを再び元の位置に押し戻して、唇を奪う。細い二の腕が、頭に巻きつく。しばらく後、はるかは唇を離して、みちるの瞳を見た。みちるは微笑してはいたけれど、悪戯を見つけられた子供のような顔をしていた。しばしの沈黙。「私ばかりじゃ、不公平だわ…。」と、少し甘えた声が言う。そしてすぐその後に「はるかが大丈夫なら、まだもう少しだけ起きていたいの。」と言葉が足された。
 はるかは疲れていたけれども、自分のことよりもみちるの身体を気遣った。みちるからの申し出を断って、疲れているだろうから正午まで眠ろうと提案する。みちるは少し残念そうな顔を見せたものの、やや間を置いて食い下がってきた。「さっき少し寝たから、大丈夫。」という。珍しく聞かん坊なみちるの様子に、苦笑する。みちるの上から転がりおりて、仰向けになった。
 みちるは柔らかく笑って、頭をもたげた。髪を耳にかける仕草。そしてはるかの顔に近づいて、唇を重ねながら、はるかの上空を少しずつ制していく。首元に再び、あたたかい吐息。はるかは今度はくすぐったさを我慢した。程なく耳の下の柔らかい皮膚に、優しいキスが与えられた。そして胸元へと、潤いのある唇が這っていく。はるかが吐息を噛み殺すと、それを察したみちるは一度顔を上げて、再度はるかの唇に戻ってきた。唇を触れ合わせながら、みちるは掌ではるかの太腿の回りを撫でて、“花”を潤わせた。はるかが慣れてきたのを確認した後、みちるの口は再び首元から下りていき、はるかの鎖骨にかかった。柔らかな唇が鎖骨の皮膚を軽くついばむ。まもなくして胸に快感が走った。太腿のあたりでは、相変わらず掌が愛撫を続けていた。
 腕の中のみちるは、はるかの乳首の回りや腹に、小鳥のようなキスを繰り返す。されるがまま、みちるを抱く腕を這わせていく。長い巻き毛の先が、はるかの腹をくすぐる。乳首を軽くついばまれ、はるかは吐息を漏らした。みちるは唇を止めない。疲れていたが、触れられる度に確実に体温があがっていくことは確かだった。白い細腕が、引き締まったはるかの身体を這い回る。首を回す。サイドテーブルの置時計を見る。正午までは、まだ3時間はある。
 はるかも、みちるが欲しかった。これから始まる最後の戦いの前に。みちるが欲しかった。




 二人を包んでいたブランケットは、みちるの新たな動きによってずり落ちていった。そのまま身体を下げていって、はるかの“花”を唇で捉える。最も敏感な部分に触れられて、はるかの身体が跳ねた。体が力んだ拍子に、腹筋が綺麗に浮き上がったのがわかった。スポーツ選手として鍛え上げられたはるかのボディは、ミケランジェロの作ったダビデ像のように、ごく自然な筋肉美を持つ芸術品だった。それを間近にしながら、視線をを再び下腹部の“花”へと移していく。いつかはるかが、自分のこの部分を“唇”に似ていると言っていたことを思い出す。優しく口付けて、手指でも愛撫し、快楽を与えていく。ともすれば、みちるに快楽を与えることに一生懸命になり過ぎてしまうはるかを、こうやって感じさせていくことは楽しかった。はるかだけが、いつも抱く役目を負う必要はない。苦し紛れにみちるの頭に触れようとして、結局諦めてベッドに投げ出される手さえ、愛おしかった。しばらくそうやって“花”を愛でていると、はるかが短く声をあげた。花奥に指し込んでいた舌が、緩く咥えこまれた。
 みちるは顔をあげて、はるかの様子を見た。熱に浮かれたような表情で、けだるそうにこちらを見ている。腕に手を這わされて、それに導かれるようにはるかの唇に近づく。軽いキスを繰り返す。もうそろそろ、タイムリミットが近い。唇を離したはるかが言った。

「…これくらいに、しよう。……、…。…正午まで…、少し寝ないと…。」
 はるかはみちるを捕まえて、新たな動きを封じた。抱き締めた腕の力よりも強く、みちるがはるかを抱き締め返してきた。はるかの息は、1000 m を全力で走ったとき並みに上がっていた。みちるは今度は反論せず、もう一度二度キスを交わした後、はるかの隣に横たわった。
「そうね…。起きたら、うさぎに電話を入れて、変身ブローチを預かりましょう。」
 “うさぎ”という言葉に、ぴくりと反応する。放っておけば、きっとあの娘は邪魔に入るだろう。手を汚したことがない者だから言える、綺麗ごとの御託を並べて。それにあの娘の命まで、今回の戦いでは責任が持てない。
「…、…。そうだな。…。あの娘まで、巻き込むわけにはいかないから…。」
 外では、雨がまだ降っていた。ブランケットを取りに起きあがろうかどうか悩んで、思いとどまる。代わりに、みちるを抱き締める。みちるの匂いを吸い込みながら、ふとあることを思い出す。寝る前に、あと一つ言っておきたいことがあった。
「みちる…。」
 はるかの首元に顔を埋めていたみちるが、顔を上げた。深く澄みきった、エメラルドのような瞳がこちらを覗き込んでくる。頭の中では、今朝方見た夢の内容がフラッシュバックした。無数の銃弾を浴びて、倒れていくネプチューンの姿が、脳裏に焼き付いていた。夢とはいえ、あまりにもリアルな内容だった。正夢にならないように、早めに口に出してしまおうと思った。
「“僕を置いて、消えたりしない”って、約束してくれないか…。今度の戦いは、今まで以上に厳しくなるのはわかるし、前にした約束もあるけど…。……。君がいなくなるのは嫌だ。」
 “死ぬ”という言葉はあえて使わなかった。それでもみちるははるかの真意を理解したらしく、はるかの顔を見て、哀しそうに微笑した。涙は見せず、頬を寄せてくる。そして穏やかな声で言った。
「今さら離れられるわけないじゃない…。」
 その言葉を受けて、はるかも同じく哀しい微笑を返した。みちるの言葉は、自分の発言への承諾にも聞こえるけれど、私情を切り離してただ現状を口にした過ぎないようにも聞こえたから。はるかには、そのことが訝しかった。…今朝プールサイドでみちるを見つけたとき、彼女は「夢を見た」と言っていた。目が覚めてもずっと強く感じているような、強烈な夢を。まさかみちるも…。今日これから起こることを、夢で見ているんじゃないか。だからこんな穏やかな表情で、嘘を…?…いや、あんなのは夢だ。たとえ同じ夢を見ていたとしても、夢に過ぎない。己れの不安が、それぞれの夢で具現化された過ぎないのだ。正夢なんかじゃない。
 刹那の思考の後、みちるがまた口を開いた。
「はるかなしで生きていくなんて、私には酷だもの…。」
 はるかはまた訝しく思った。みちるの発言が、やはりはるかの懇願に応える内容にはなっていなかったから。自分のことじゃなくて、みちるが死なないことを懇願しているのに、「はるかは死なないでね」と話をすり替える。そうじゃなくて「約束するわ」と、「どこにも行かないわ」と…、言ってほしいのに。その言葉をあえて言ってくれないのは、自分の嫌な予感を肯定しているようにも思えて、哀しかった。

 聞き慣れているはずの透き通るような声が、今ははかなく感じられた。あまりにも澄みきっていて、このまま透けて消えていってしまうように思えた。はるかはみちるをしっかりと抱き締めた。どこにも行かせない、と強く思った。抱き締められたみちるは、はるかの気持ちに応えるように、両腕でそっとはるかを包み込んだ。片脚を伸ばしてはるかの身体を挟み込み、身体をもっと密着させてくる。人肌のあたたかさと吐息が、いまさらながら新鮮に感じられた。これだけ多く肌を重ねてきても、今この瞬間に感じるみちるは新鮮だ。本当にいなくなるかも知れない、と今初めて思っているから。そうはさせまいと、これまで以上に全身でみちるを感じ始めているから。…僕は片翼の鳥。そのことに気づいた今は、いまさら一人では飛べない。…みちるがいなくなったら、どう呼吸して生きていけばいい? どう笑って、どう走って、どこを目指して…生きていけばいい? ……。みちるがいなくなったら、僕が戦士をやる意味は…。
 はるかは沈黙した。みちるもそれ以上何も言わず、はるかの頭や頬を撫で始めた。胸に秘めた哀しみの一方で、強い眠気が襲ってきていた。朝早くから予定外の“運動”をしてしまったため、体が休息を訴えている。瞼が、少しずつ重くなっていく。まどろみながら間近に見る、深く澄みきったエメラルドの瞳。その瞳の様は、とても穏やかだった。明け方の夢の残像が、眼の奥でまたフラッシュバックする。頭の中には、絶叫しながら銃弾を浴び続けるネプチューンの姿があった。夢の中では身体の自由がきかないのか、傷つき倒れていく彼女を助けることすら出来ない。漠然とした不安を抱えたまま、また現実に戻ってくると、さっきと同じ穏やかなエメラルドの瞳があった。眠さで意識が薄れていく。今この瞬間が夢なのか現実なのか、よくわからなくなってきていた。
 不意に目や喉の奥から、熱いものが込み上げてきた。堪えようとしたが、今度ばかりは難しかった。涙の玉が、あとからあとから瞳から溢れ出していく。それがウラヌスの感情によるものなのか、自分の感情によるものなのか、わからなかった。
 みちるははるかの身体を、優しく撫で続けた。
 はるかは泣きながら、眠りに落ちていった。

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